最近立て続けに起こった、古本にまつわる良い話をまとめています。
先日、神保町に資料を探しにいったのですが、その日はたまたま、古書フェアをやっておりました。
縁日のように路上に露店がならび、普段よりも割引していましたので、
色々と物色していたところ、
とあるお店で、
民俗学者の折口信夫の全集を発見しました。
上の写真は、単行本ですが、ここで発見したの文庫本サイズ。
全31巻がまとめて売られており、しかも、かなりお買い得な価格。
今まで折口信夫の作品は、
キンドルを利用するか、文庫本で、どれも断片的に読んでおり、
まとまって読み込んだことがありませんでした。
しかし、日本の歴史、民俗そして信仰を知る上では、
避けて通ることのできない大先達。
うーん、いつかは全集を手にしたい。
全集かあ、
やっぱり紙はいいよなあ、
手元に置いておけたらなあ、
などと、いつものように溜息まじりに、眺めていると、
人混みの中から、背の高い男性が突如現れ、
一声。
「コレ、クダサイ」
!?
え?
その発音で、この全集ですか?
振り返るとそこには、
なんと、若い白人男性の姿が!
しかも、この方、「発送しますか?」という店員さんのススメに対し、
「オモチカエリデ」
と、全31巻を紙袋に入れて、持ち帰ろうと試みているではありませんか。
まったくもって、衝撃的。
恐れ入るとは、このこと。
これは只者ではない。
気をとり直し、さっそく話しかけると、
シアトルのご出身で、現在は日本の大学の研究室で、折口信夫をテーマにしており、
なおかつ、プロの翻訳家として現在和歌集「海と山のあひだ」を手がけているとのこと。
さっそく、名刺交換をさせて頂きました。
現在手がけている私のプロジェクトで、どうしても英文校正の必要があり、
思ってもみない、出会い。
これが、本が繋ぐ縁であり、
ここに、紙の価値が、今でも厳然としてあると、いえなくはないでしょうか。
しかし、同時に、いつかは全集を・・・と思っていた自分が情けない。
これは、今すぐにでも始めなければならぬ。と思い直し、
神保町を後にしたのでした。
数日後、打ち合わせの帰りに、
家から最寄りの古本屋さん「田園りぶらりあ」に立ち寄ると、
なんと!
昨日まで、何もなかったスペースに、
折口信夫全集が積み上げられているではありませんか!
しかも単行本サイズで、ありえない価格!
(ここで価格を明記するのは、申し訳ないくらいの価格で、
これが、古本屋の世界で名高い、りぶらりあさんの特色なのです)
単行本バージョンで有り難いのは、一巻一巻に月報が入っていること。
折口博士にまつまるエッセイ、思い出などを、
大岡昇平、大江健三郎、白洲正子、そして写真家の芳賀日出男氏などが、かいています。
しかし、さすがに単行本サイズ31巻は、持ち上がらず、
手にも持ちきれないので、一端帰宅後、車で取りにきました。
資料としてはもちろんの事、
文学として、コツコツと、読み続けていこうと思います。
*
真澄み雲 よるべもなくて、
しかもなほ 澄みて 明るし。
凪ぎなぎて しづけき空の
ひたすらに冴え行く色に 似たる思ひか
「断雲」より抜粋
*
YH
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